予防と健康管理ブロック

〜ストレスとリラクゼーション〜

 

1.はじめに

講義のビデオを見て、近年、ストレスによってうつ病や適応障害、睡眠障害などの精神疾患に加え過労死や心臓突然死のような身体疾患に罹患する方が多くいることを知り、同時に、他の学部よりもストレスを多く受けるといわれる医学部に所属する自分も人事ではないと思い、今回ストレスと、その解決法になるのではないかと思われるリラクゼーションの二つのキーワードからストレスの仕組みとその対策について考察していきたいと思う。

 

2.選んだキーワード

 「ストレス」

 「リラクゼーション」

 

3.選んだ論文とその概略

 (A)ストレスと心身症   著:安藤哲也 石川俊男  日本医師会雑誌 第1361

 

 

 (T)心身症とは

心身症とは「身体疾患の中でその発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし神経症やうつ病など、他の精神障害を伴う身体症状は除外する」と定義されている。(日本心身医学会、1991年)すなはち、心身症は「からだ」の病気で、「心身症」という特定の疾患病名があるわけではなく、「こころ」と「からだ」の病気との間に相互に密接な関連があるという心身相関の「病態」を示す言葉である。その病態には感染症や癌を含めてすべての疾患がみられるが、その関与の仕方、程度、臨床的重要性などは個々の疾患、患者ごとに異なっている。

 (U)ストレスとからだの反応

  急性のストレスに対する生理的反応としては、脳内の神経伝達物質(ノルアドレナリン、セロトニン、ドパミン、コルチコトロピン放出因子など)の動態の変化や、自律神経系(交感神経、副交感神経の興奮など)、神経内分泌系の反応がよく知られている。自律神経系や神経内分泌系の変調を介して免疫系も修飾される。これらの身体反応は、動機や呼吸の促進、発汗、口渇、吐気、便意などとして自覚される場合もあれば、血圧の上昇や血糖の上昇、免疫機能の低下など自覚されにくいものもある。

  ストレスに対する身体反応が直接、単独で疾患を発症させることはまれで、先天的・後天的な素因(たとえばアレルギー体質、心血管反応性など)ないしは、疾患感受性と環境要因(病原菌やアレルゲン、栄養、生活習慣、汚染物質など)が合わさって発症準備状態をつくり、あるいは発症の契機となる。また、ストレス反応は、すでに罹患している身体疾患の病態に作用し、悪化・持続因子となる。

  ストレスは喫煙、飲食、飲酒、過食、睡眠不足などの不健康なライフスタイルを形成促進することでも疾患の発症や悪化に関与している。

  セリエ(Hans Selye)が明らかにした一般適応症候群では、ストレスが持続すると、警告反応期‐抵抗期‐疲弊期という経過をたどり、抵抗期では最初のストレスへの抵抗力が増大するが、長時間持続するとやがて疲弊してしまう。ストレス反応はストレスが消失した後もすぐに消失せずに持続し、その回復は加齢と共に遅くなる。ストレスを自分でコントロールできる場合や、事前に予測できる場合、発散できる場合は、そうでない場合よりストレス反応は小さい。このように、ストレスの身体への影響にはストレスの大きさや期間、重複、コントロールや予測、対処が可能であるか否かが関係する。ストレスから時間を経ても、身体への影響は残っていることにも注意するべきである。

 (V)心理社会的ストレスの種類

  心理社会的ストレスは、大まかに以下の三つにわけられる。

@     人生上の大事件(ライフイベント)

就職、転勤、昇進、退職、結婚、転居、離婚、配偶者の死など、生活上に大きな変化をもたらすようなできごと。元の日常の生活パターンに回復することや新しい状況に適応するのに、心的エネルギーを消耗し健康障害を起こしやすい。

 A日常生活ストレス(日常の苛立ち)

   日常的な職場や家庭、学校のどでのストレス。常態的な性質を持つストレスが健康状態に影響する。

Bライフサイクルのストレス

  人は生まれてから死に至るまで、たとえば青年期の自立やアイデンティティーの確立、成人期の就職、配偶者の決定、恋愛、結婚生活、子育て、職場での責任の変化、子供の独立、老年期の老化や喪失体験、近親者の病気や死など発達課題に直面する。それを乗り越えることで人として成熟するのと同時に健康障害のリスクともなる。

(W)個人差

ストレスに対する抵抗は個人差があり一般的には真面目、仕事中心主義、頑張り屋、嫌と言えない、人に気を遣う、自己犠牲的、良い子といわれるタイプがストレスを蓄積しやすい。

 

 

 

 (B)リラックスのメカニズム   著:白川修一郎  Food Style21 Vol.10 No.5/2006

 

 

 (T)リラックスとは

リラックスは、休養やくつろぎ、気晴らし、娯楽などにより、緊張している状態が、本来もっているもとの状態に緩和され定常状態に向かうことを意味する。言葉の上では定義されている。

 (U)リラックスの対極

リラックスの対極は、緊張あるいは過覚醒であり、たとえば、緊張状態が心身に不調を与えるほど長時間持続した結果生じる身体症状の一つに肩こりがある。これは筋疲労、自律神経失調症、神経の過剰刺激が引き金となり、交感神経の過剰な亢進が生じ末梢血管が収縮し血流が低下し、筋の血行障害、筋緊張によるうっ血などにより起こると考えられている。この場合リラックスは筋緊張と交感神経の過剰亢進の緩和となる。

自然災害、戦争体験、強盗、強姦などの被害後あるいは目撃などにより生じる強い精神的外傷後の精神症状に外傷後ストレス障害(PTSD)がある。症状としては、不安や憂鬱感、意欲の欠如、無力感や絶望感、罪悪感や理由のない怒り、不眠や錯乱などの精神症状、動悸や発汗などの自律神経症状、過覚醒などの大脳皮質性の興奮がみられる。これは、心に加わった過剰で衝撃的なストレスが、大脳辺縁系の異常や自律神経失調、大脳皮質の過覚醒を引き起こしたことにより生じた症状と考えられている。過覚醒の原因としては、覚醒系の神経伝達物質であるセロトニンの欠乏や覚醒系の最終的な神経伝達物質であるグルタミンの調節障害と推測されている。上記のようにリラックスの対極には、筋緊張の過剰な持続、交感神経の過剰亢進、過覚醒、情動的興奮の持続が存在する。一方リラックスの極では、筋緊張の緩和、過覚醒からの定常的な安静覚醒状態への回復、情動的鎮静が存在する。

(V)情動系の鎮静

情動系の鎮静による不安や心的緊張の緩和については、ベンゾジアゼピン(BDZ)系の抗不安薬(マイナートランキライザー)があり、ガンマアミノ酪酸(GABA)A受容体上のBDZ結合部位にアゴニストとして結合し抑制性の神経伝達物質であるGABAの作用を増強する。その作用を増強することで特に情動の中枢をつかさどる扁桃体などの大脳辺縁系でよく作用し情動系の鎮静を促す。また、情動系に関しては香りによる鎮静作用も知られている。香りの効果には、上行性に嗅脳から大脳辺縁系を介した鎮静作用、副路を介した自律神経への直接的な作用が知られており情動系の鎮静作用が確認されている。

 (W)自律神経と大脳皮質活動のリラックス

  リラックスに関係する自律神経活動と大脳皮質活動とはどのようなものであろうか?自律神経には交感神経と副交感神経があり、正常な自律神経活動は、約24時間周期で変動する生体リズムに支配されている。自律神経による調節は、循環、呼吸、消化、排泄、生殖、体温調節、血糖調節、瞳孔と広く全身に及ぶ。生命を維持するために、交感神経と副交感神経は持続的に活動し緊張している。外的・内的環境が変化し、自律神経が制御する生命現象が正常範囲を逸脱した場合には、交感神経あるいは副交感神経が調節的に働き状態を一定に戻そうとする。ベッドの上に24時間絶対臥褥した状態で計測された若年男子の心臓交感神経と迷走神経(副交感神経系)の基礎活動の記録によると、活動自立神経活動が健常な状態にあると睡眠数時間前から交感神経活動は減衰し始め、入眠の30分〜1時間前より急激に活動レベルが低下する。また、副交感神経活動も入眠12時間前から上昇し始める。この例の自律神経活動からみると、入眠1時間前から入眠までが覚醒で最もリラックスした状態にあることが観察される。

  以上より生理状態から見たリラックスには筋の過剰緊張の弛緩、情動的鎮静、大脳皮質の過剰興奮からの定常化、交感神経活動の亢進の減衰、心的緊張の緩和の5要因に分類できる。

 

 

4.考察

 以上のことからストレスへの対策を考察する。まず、心身相関の病態を把握し心身ともにかかるストレスを軽減することが大切であると考える。そのためには、上記の5要因のいずれかに当てはまるかを理解し、筋の過剰緊張があればゆっくりと湯船につかるなどして血行を改善し、情動的興奮によるストレスであれば、手軽であればラベンダー香りを嗅ぎ大脳辺縁系に直接うったえかけ、大脳皮質の過剰興奮、交感神経活動の亢進であれば、効果的な睡眠をとり交換神経活動の亢進を抑制し、大脳皮質の過剰興奮を抑え、心的緊張には話を聞いてもらうなどして緊張の緩和をうながすなどして、それぞれのストレスに対応した対処法をとることがストレス発散への一番の近道だと考える。また同時に身体疾患がある場合は身体的な苦痛をできるだけ軽減する必要がある。しかし、人間社会では仕事が長期間忙しかったり、誰にも相談できなかったりなど、一度ストレスの中に巻き込まれるとなかなか抜け出せなかったり、対処法をとる時間すらないことがある。そうならないためにもストレスをためないということが大切だと考える。そのためにもストレスに対してはある程度の覚悟をしてストレスを軽減して、ストレスがたまれば何らかの方法で発散する術を確立しておくことが大切なのではないだろうか。

5.おわりに

 今回ストレスとリラクゼーションという二つのことについて考察したが、最近ストレスによる自殺などが増えていることを考えると私たちの命よりも優先して受けなければならないストレスがあっていいのだろうかと考える。勤勉を美徳とする日本人だが、仕事でも勉強でも不真面目になってはいけないが自分のからだあっての仕事、勉強と割り切り柔軟な考えで羽を伸ばすことも必要なような気がする。これから学生生活や、医師になった後でも仕事とストレス発散の時間のめりはりをつけ充実した質の良い人生を送って生きたいと思う。